【十勝清水】看護と宿の交差点 – 桐木智一さん/和みの風 (前編)

 

札幌から高速道路を使って二時間半ほどクルマを走らせると、いくつかの峠を越えて、
見渡すかぎり広がる道東の入り口に位置する、「十勝清水」という町が見えてきます。

その町の中心街から少し外れて、さらに15分ほど丘の向こうへ進んでいくと、
民家もまばらな畑地が左右に広がっていて、あるひとつの宿が見えてきます。

その宿の名前は、「和みの風」。
看護師である桐木さん夫婦が営んでいる、バリアフリーのペンションです。
今回は、和みの風へお伺いしたときのお話を、自分なりにまとめてみます。

・「hospital」と「hostel」の共通点

「看護師さんが一緒だったら、旅行するのになあ。」

桐木 智一さんが新人だった頃、患者さんに言われたその言葉が、心に残っていたそうです。

やがて、健康に不安のある患者さんにも旅行を楽しんでもらいたいと、訪問看護師から一転。
バリアフリーの宿「和みの風」を建て、運営を続けてきました。

ご存知の方もいるかもしれませんが、【hospital】病院【hostel】宿とは、
【hospitail】手厚いもてなし、という同じ語源から派生したものだそうです。

どちらも元々は、他人に気分良く過ごしてもらうためのもの。
その交差点を形にしよう、というのが桐木さんの発想でした。

看護師の経験を活かして、一般の人では気づかない視点から、
宿泊を手伝い、旅行をあきらめていた人にも旅をしてもらいたい

そんな思いから、今まで考えたこともなかった開業をするために、
経営を学び、物件を探して、開業費用を工面したりと、東奔西走。

もとは地域の集会所だった場所を、中身をリフォームしていき、
そして完成したのが、看護師ならではの宿「和みの風」でした。

・「看護師」✕「ペンション運営」

一般の人では気づかないような視点で、ゲストに気づかいをする。
看護師として宿をやる意味は、そこにあると桐木さんは話します。

サービスと看護は違うものですが、よく似ている部分があります。
看護とは、相手の抱える問題に寄り添い、営みの手助けをすること。
その視点を広げて、旅行が困難な人の旅の手助けをする宿を作ろう。

宿泊業と看護、これらの異なるふたつの領域に交差点を見出し、
看護師目線でペンションを建てようと考えた桐木さんの発想に、
自分は、これからの旅の在り方のひとつを見たように感じました。

・「旅の幸せ」をもっと多くの人に

旅をしたくても、健康的な理由から、それが困難な人もいます。
旅先での体調に関する不安から、旅行をする前に諦めてしまう。

しかし、そういった人たちにこそ旅は必要なのかもしれません。

”ターミナルケア”という言葉をご存知でしょうか。
それは、いわゆる終末医療と呼ばれているものです。

生命の期限が迫ってきていることが分かってしまったとき、
残りの時間を、本人が望むように過ごす手伝いをすること。

その手段として、旅はもしかすると一助となるかもしれません。

自分が直接関わった訳ではありませんが、自分の勤めているホテルに、
「終わるまえに雲海を見てみたい」といって泊まりに来てくれた方が、
実際にいらっしゃったという話を、先輩から聞いたことがあります。

それは、ゲストとホテルの双方にとってリスクの高いことではありますが、
その旅行がその人自身や残される周りの人にとって大切な時間となるなら、
それはとても意味のあることだと、自分はそのお話を聞いて思いました。

そういった時間を、もっと多くの人に。
桐木さんは、看護師の宿がその手助けをできれば、と話していました。

ただ、市場的にそれはまだ大きなニーズがあるといえる状況ではなく、
想定していた、「旅を困難に感じている潜在的な旅行ニーズ層」には、
まだまだその選択肢があることが知られていないのが現状だそうです。

観光・旅行業は、2020年にひとつの節目を迎えると言われています。
ターミナルケア自体、ここ数年で取り上げられるようになった概念で、
これからの旅の在り方のひとつとして、潜在的な市場もあるはずだと、
桐木さんはそのように未来を予想しています。

せいしゅう

現社会で進む高齢化や、人生の質について考えるようになった時代の潮流に、
桐木さんのイマジネーションが応えられる時がきっと来ると、自分は思います。

後編につづく。

看護と宿の交差点をつくる – 桐木智一さん/和みの風【後編】